********** 建物目視調査所見

 

 建物は風雨・紫外線・地震等の挙動・自重等により劣化・傷みが生じます。築後12年を迎える本建物の各所にも劣化が認められます。劣化は認められるものの診断調査の数値にばらつきはありますが、コンクリート強度・中性化試験の結果からコンクリート躯体は健全な状態といえます。人間でたとえますと体はいたって健康、外で活動していたために服の破れ、汚れ、擦り傷を負い、生命の危険は全く有りませんが、一部に深い傷があるといった状態です。深い傷とは701号室のお部屋内への漏水、407号室バルコニー天井漏水等であり特にお部屋内の漏水は早急に対応する必要があると思います。

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 701号室お部屋内へ漏水しています。漏水上部屋上には排水口があり、排水口周辺シート防水が破断しています。

 
701号室漏水跡

 407号室バルコニー天井に漏水による塗膜のメクレ、コンクリート成分が流れた跡であるエフロレッセンスが認められます。漏水上部はバルコニーとルーフバルコニー更に柱が接合する部分で、接合部シーリングに割れも認められます。ルーフバルコニー下部には407号室部屋内へ水が浸入しないようアスファルト防水処理が施されていますが、バルコニー部では施されておりません。その接合部から水が浸入したものと思われます。ルーフバルコニー部は保護モルタル仕上げとなっておりますが、ルーフバルコニー保護モルタル部全面にも防水処理を施し下部への水の浸入を止める必要があると考えます。
                             
図解) 

407号室バルコニー漏水跡

エフロレッセンス:天井・壁に見られる白い物質。エフロレッセンスはモルタルやコンクリートから炭酸カルシウムなど

         が析出する現象で、発生の原因は水が通過することにあり、水みちの存在を明らかにしています。

 

 5階東側廊下天井(507号室門扉上部)に漏水跡が認められます。上部606号室バルコニー床には塗膜防水が施されておりません。又、漏水跡上部近くの笠木部にクラックが認められます。クラックからの水の浸入が考えられます。

 
5階廊下漏水跡

 701号室漏水の原因と思しき現象が、東側屋上にも認められます。

 排水口付近のシート破断、シート接合部のシートメクレが認められ、一部排水口に土が堆積し植物が生えておりました。定期的な清掃が必要と思われます。

 
 
507号室屋上シート防水メクレ

 シート防水を押さえ水の浸入を防ぐ金物に施されているシーリングに劣化が認められます。当該箇所からの水の浸入は防水シート内部へ水が浸入する可能性があります。

 
 
防水押さえ金物シーリング劣化

 漏水事故等には至っていないと思われますが、屋上シングルが劣化しめくれている箇所が認められます。

 

 
屋上シングルメクレ

 屋上パラペットは防水層を巻き上げ、末端から水の浸入を防ぐ重要な箇所です。シート押さえ金物と同様パラペットからの水の浸入は漏水事故に結び付きます。ウレタン塗膜防水等で膜厚を十分確保し防水性能を高められてはいかがでしょうか。

 
 屋上パラペット天端クラック

 廊下、バルコニーの大庇天端にはウレタン塗膜防水が施されています。部分的に塗膜の摩耗、仕上げモルタルの浮きが認められます。又パラペット天端や廊下袖壁天端部分にウレタン塗膜防水が施されていない個所が認められ、クラックが発生しています。又、袖壁タイル取り合いシーリングが劣化し水が浸入したと思しき箇所がありタイルの浮きも認められます。 

 
廊下大庇天端・鼻先クラック


廊下袖壁天端 鉄筋の露出

 パラペット・大庇天端は、紫外線・風雨にさらされる箇所です。改修塗装を施された箇所のように天端全てをウレタン塗膜防水で覆い防水性能を高められてはいかがでしょうか。 
 
601号室出窓天端防水改修塗装

パラペットウレタン塗膜塗装 施工例 

 ルーフバルコニーは現状の保護モルタルの下に防水層があり防水機能の劣化は無いと思われますが、407号室バルコニーへの漏水のように、保護モルタル仕上げルーフバルコニー部とバルコニー・柱が接合している部分等にはそれぞれにまたがって防水処理を施す必要があると思われます。701号室ルーフバルコニーのようなフラットな箇所にも目地部にモルタルの劣化や全体的な汚れも認められますので、ルーフバルコニーの防水処理を検討されてはいかがでしょうか。

 
ルーフバルコニー 目地部モルタル劣化

 ウレタン防水 通気緩衝工法 施工例

 

 

 バルコニー袖壁天端部に仕上げモルタルの肌離れやクラックが認められます。

 クラック補修後下地調整材を厚塗りし、クラックが表面に現れにくくされてはいかがでしょうか。


バルコニー袖壁天端モルタル肌離れ
 

 シーリングに劣化が認められます。シーリングの劣化は漏水に繋がりますので大規模修繕時には打替を検討されてはいかがでしょうか。

 

バルコニー庇周りシーリング バックアップ材破断 

 タイル外壁にタイルの浮き、割れが認められます。認められる浮き、割れは私どもがこれまで調査した同程度の経年物件と比較して少ないものです。しかし、バルコニー側袖壁部に比較的広い範囲のタイル浮きが認められます。落下物は落下の高さの半分程の長さの範囲に広がるとされています。具体的に7階手摺壁にタイルの浮きが認められますので高さが約18m、地上では落下タイル箇所から半径9mの範囲に広がる事となり、1階専用庭を超え落下する可能性も考えられ、落下による賠償責任は建物所有者が負うものとなります。本年度は特殊建築物定期調査報告の年で、報告書にタイル浮きが指摘された場合は3年以内に全面足場を設置し調査、又は改修工事をする事が求められます。 
702号室703号室間 袖壁タイル浮き 

 バルコニー側袖壁以外ではEV扉上部、EVシャフト外壁等にタイルの浮きが認められました。


5階EVシャフトタイル浮き 

 1階バルコニー手摺壁、7階ガラス庇鉄骨取付部に連続するタイルの割れが認められますが、その他では1枚程度の割れで認められる割れも他同条件物件と比較しても少ないように感じます。

 特に7階庇鉄骨取付部のタイルは手摺外側に落下致しますと危険です。早期の対応が望まれます。

 

 
702号室ガラス庇鉄鋼取付部タイル割れ


 7階東側消火栓BOX裏側上部、701号室パラペット手摺足元、606号室バルコニーに爆裂が認められます。 
 
701号室パラペット手摺足元爆裂

 タイルの浮き・割れ、外壁の爆裂は他同条件建物と比較し非常に少ないように感じます。しかし、外壁のクラック、特に開口部(サッシ)周りに多くのクラックが認められます。これはサッシを取り付けた後コンクリートとサッシの間にモルタルを埋めた箇所で生じている現象で、乾燥収縮・コンクリートとモルタル接合部で一体となっていない為生じることで、強度的には全く問題有りません。ただ206号室のようにコンクリートが欠落している箇所が有ります。この現象は当該箇所下部に誘発目地がありクラックが発生する事を想定している箇所上部に有るため当然の結果とも思われます。

 
 
206号室サッシ周りクラック コンクリート欠損


 バルコニー側最上階窓周りにもクラックが認められます。又上階部に共通してパーティションボード上部袖壁にクラックが認められます。地震等の挙動による割れと思われます。 
 
702号室パーティションボード上袖壁クラック

 
 開口部以外にも多くのクラックが認められますがクラック巾の小さいものが多く且つ表面的なものと思われます。例えばバルコニー手摺壁、袖壁に認められる壁端部から横に伸びるクラックは乾燥収縮によるもの、亀甲状に発生するクラックは凍結融解作用によるものでいずれも表層モルタルでの割れであり強度的には問題有りません。

5階廊下袖壁クラック
 

 西側外壁に真横に走るクラックが目立ちます。建物は段階を追って造られます。コンクリートも一度に打設するのではなく打継を致します。一度乾燥した上に新たなコンクリートを流し込みますのでコンクリートの完全一体化は難しく鉄筋による接続等で一体化を促しています。通常は目地を設置し表面に打継のクラックが表面に現れるのを防いでいますが打継部には目地が設置されていません。

 サッシ角部のタイルの割れらしきもの、タイル・打継部クラックからエフロレッセンスが析出している箇所が認められます。

 
 
西側外壁コンクリート打継部エフロレッセンス析出

 バルコニーアンケートの結果通り比較的上層階に多く劣化箇所が認められますが1階両サイド(101号室、108号室)玄関扉角上部から巾の広いクラックが発生しています。又1階廊下手摺壁には内側にエフロレッセンスが析出し、外側にタイルが割れているクラックが認められます。 

108号室玄関扉角クラック 


 クラックの補修はクラック巾や状況によりその工法は異なります。0.3㎜未満のクラックはフィラー処理、0.3㎜以上のクラックで挙動ありはUカットシーリング処理、挙動無しは低圧注入処理を致します。701号室にUカットシーリング処理の補修跡が認められますがシーリングが痩せブリードしています。痩せが少ないノンブリードタイプのシーリング材を使用致します。

ブリード:シーリングの成分である可塑剤が析出しての変色や、可塑剤に異    物が付着し汚れる現象をブリードといいます


701号室クラック補修跡 シーリング材痩せ、ブリード
 

 バルコニー床には防水塗装が施されており漏水現象、クラックも他同条件物件と比較し非常に少ないと感じられます。 

308号室バルコニー入隅漏水跡 

 バルコニー床防水塗膜に摩耗・カスレ等の劣化現象が認められます。

 606号室バルコニーは勾配不良の為塗膜防水材で勾配調整をしていますが、トップコートを厚塗りした為割れが生じています。厚塗りを行うのであれば中塗り材ですが沈降性があるため塗り材での勾配調整は難しいものと思われます。溝等を新設されてはいかがでしょうか。

 1階バルコニー床はモルタル仕上げのままです。漏水の心配はありませんが、クラックや床の変色が認められます。

 

606号室バルコニー床 塗膜割れ、水溜り
 

 廊下床はバルコニーのように防水塗装は施されていませんが、廊下天井には漏水を示す現象・クラックは同条件物件と比較し少ないように感じられます。

 漏水は認められませんが床面には多くのクラックが発生し、モルタル浮きも認められます。

 

4階廊下床 クラック、浮き 


 右は築後30年を超える物件の状態です。この物件は新築時床には防水はされておらず、第一回目大規模修繕工事でも防水処理は行われていませんでした。第二回目大規模修繕で補修、防水処理を行いましたが第二回までの間にコンクリート中性化、上部溝部からの水の浸入により鉄筋がサビその堆積膨張によりコンクリートを破壊(爆裂)しています。将来を見越し防水処理が必要です。 
 
他物件 鼻先落下危険個所


 現在の廊下防水は塩ビシート貼りが主流です。美観もありますが塗膜防水の為には通行禁止にするか、片側ずつの塗装が必要となります。生活環境の中での工事である改修工事では廊下通行禁止には無理が生じます。片側ずつの塗装では中央に塗り重ね部が生じ仕上がりに影響致します。価格面でも大差は無くバルコニーでも広く塩ビシートが用いられています。 

廊下床シート貼り 施工例 

 東側低層部廊下階段床に液体による斑点状の汚れが認められます。掲示によりペットによる汚れが指摘されているようですが、同様の汚れが壁にも付着しておりペットによるものではないようにも思えます。

 
 
東側階段廊下斑点汚れ

 天井にクラックは少ないと記しましたが入り隅部等には小さなクラックは発生しています。又コンクリート打設時に用いる型枠を固定するセパレータを埋めた穴跡が塗膜メクレとして現れています。

 
 
1階廊下天井クラック エフロレッセンス析出

 階段床には浮きも認められず健全な状態と思われます。

 
 
屋内階段天井

 外装仕上げ材にチョーキング、石調仕上げ外壁に汚れが認められます。

 

    チョーキング:塗膜が紫外線、熱、酸素などの影響で

           その結合力を失い表層が粉末状になる現象

 
 
玄関アプローチ天端汚れ

 PS扉・消火栓BOX等改修塗装が施され健全な状態と思われますが、直接紫外線・風雨にさらされる外部鉄部に著しいチョーキングが認められます。

 特に7階東側消火栓BOX内部に水が浸入していますので、水抜き穴等の処置が必要です。

 玄関門扉に点錆びが認められます。

 
 
避雷針錆び

 バルコニー庇ガラスに割れが認められます。

 
 
701号室庇ガラス割れ


 排水枡蓋に割れ、網に破れが認められます。 
 
排水枡網破れ


 駐輪場屋根樋部・支柱に錆びが認められます。 
 
駐輪場樋部分錆び


 606号室樋から水漏れが認められます。水がサッシ水切りに当たり大きな音を発しており、居住者の方がお困りです。早急に対応する必要があります。 
 
樋から雨水が水切りに落ち耳障りな音を発しています

 敷地入口バリカー、フェンス、EV機械室フードカバー、108号室パーティションボードに変形が認められます。

 
 
108号室パーティションボード 変形

 

 人間には自然治癒力が有りますが、建築物には有りません。施す処置は外科手術となり症状が重くなるにつれ費用も嵩み傷跡も大きくなります。築後12年大規模修繕工事を検討される時期と判断致します。 

 第一回大規模修繕工事は躯体を新築時に近い状態に戻し、美観はもとより躯体保護を高める事が重要です。

 
劣化診断状況(動画へのリンクは解除しています。)
 

提出書類

  ・劣化診断報告書   ・外壁屋上等共用部調査記録   ・バルコニー立入調査記録

 
改修工事の流れ