********** 建物目視調査所見(抜粋サンプル)

  建物は風雨・紫外線・地震等の挙動・自重等により劣化・傷みが生じます。築後○○年を迎える本建物の各所にも劣化が認められます。劣化は認められるものの診断調査の数値にばらつきはありますが、コンクリート強度・中性化試験の結果からコンクリート躯体は健全な状態といえます。人間でたとえますと体はいたって健康、外で活動していたために服の破れ、汚れ、擦り傷を負い、生命の危険は全く有りませんが、一部に深い傷があるといった状態です。深い傷とは△△△号室のお部屋内への漏水、□□□号室バルコニー天井漏水等であり特にお部屋内の漏水は早急に対応する必要があると思います。



 △△△号室お部屋内へ漏水しています。漏水上部屋上には排水口があり、排水口周辺シート防水が破断しています。



△△△号室漏水跡


 □□□号室バルコニー天井に漏水による塗膜のメクレ、コンクリート成分が流れた跡であるエフロレッセンスが認められます。漏水上部はバルコニーとルーフバルコニー更に柱が接合する部分で、接合部シーリングに割れも認められます。ルーフバルコニー下部には□□□号室部屋内へ水が浸入しないようアスファルト防水処理が施されていますが、バルコニー部では施されておりません。その接合部から水が浸入したものと思われます。ルーフバルコニー部は保護モルタル仕上げとなっておりますが、ルーフバルコニー保護モルタル部全面にも防水処理を施し下部への水の浸入を止める必要があると考えます。


□□□号室バルコニー漏水跡

                                        
    エフロレッセンス:天井・壁に見られる白い物質。エフロレッセンスはモルタルやコンクリートから炭酸カルシウムなどが
             析出する現象で、発生の原因は水が通過することにあり、水みちの存在を明らかにしています。



 ○階東側廊下天井(***号室門扉上部)に漏水跡が認められます。上部###号室バルコニー床には塗膜防水が施されておりません。又、漏水跡上部近くの笠木部にクラックが認められます。クラックからの水の浸入が考えられます。




○階廊下漏水跡



 △△△号室漏水の原因と思しき現象が、東側屋上にも認められます。
 排水口付近のシート破断、シート接合部のシートメクレが認められ、一部排水口に土が堆積し植物が生えておりました。定期的な清掃が必要と思われます。




***号室屋上シート防水メクレ

 


 シート防水を押さえ水の浸入を防ぐ金物に施されているシーリングに劣化が認められます。当該箇所からの水の浸入は防水シート内部へ水が浸入する可能性があります。


防水押さえ金物シーリング劣化



 漏水事故等には至っていないと思われますが、屋上シングルが劣化しめくれている箇所が認められます。


屋上シングルメクレ







 バルコニー側袖壁以外ではEV扉上部、EVシャフト外壁等にタイルの浮きが認められました。
 

○階EVシャフトタイル浮き







 開口部以外にも多くのクラックが認められますがクラック巾の小さいものが多く且つ表面的なものと思われます。例えばバルコニー手摺壁、袖壁に認められる壁端部から横に伸びるクラックは乾燥収縮によるもの、亀甲状に発生するクラックは凍結融解作用によるものでいずれも表層モルタルでの割れであり強度的には問題有りません。


○階廊下袖壁クラック



 バルコニーアンケートの結果通り比較的上層階に多く劣化箇所が認められますが1階両サイド(***号室、□□□号室)玄関扉角上部から巾の広いクラックが発生しています。又1階廊下手摺壁には内側にエフロレッセンスが析出し、外側にタイルが割れているクラックが認められます。


***号室玄関扉角クラック


 クラックの補修はクラック巾や状況によりその工法は異なります。0.3㎜未満のクラックはフィラー処理、0.3㎜以上のクラックで挙動ありはUカットシーリング処理、挙動無しは低圧注入処理を致します。△△△号室にUカットシーリング処理の補修跡が認められますがシーリングが痩せブリードしています。痩せが少ないノンブリードタイプのシーリング材を使用致します。
ブリード:シーリングの成分である可塑剤が析出しての変色や、
   可塑剤に異物が付着し汚れる現象をブリードといいます。


△△△号室クラック補修跡
シーリング材痩せ、ブリード



 バルコニー床には防水塗装が施されており漏水現象、クラックも他同条件物件と比較し非常に少ないと感じられます。


***号室バルコニー入隅漏水跡


 バルコニー床防水塗膜に摩耗・カスレ等の劣化現象が認められます。
 ×××号室バルコニーは勾配不良の為塗膜防水材で勾配調整をしていますが、トップコートを厚塗りした為割れが生じています。厚塗りを行うのであれば中塗り材ですが沈降性があるため塗り材での勾配調整は難しいものと思われます。溝等を新設されてはいかがでしょうか。
 1階バルコニー床はモルタル仕上げのままです。漏水の心配はありませんが、クラックや床の変色が認められます。


×××号室バルコニー床 塗膜割れ、水溜り



 廊下床はバルコニーのように防水塗装は施されていませんが、廊下天井には漏水を示す現象・クラックは同条件物件と比較し少ないように感じられます。
 漏水は認められませんが床面には多くのクラックが発生し、モルタル浮きも認められます。


×階廊下床 クラック、浮き



 廊下床改修工事は塩ビシート貼りが主流です。美観もありますが塗膜防水の施工には通行禁止にするか、片側ずつの塗装が必要となります。生活環境の中での工事である改修工事では廊下通行禁止には無理が生じます。片側ずつの塗装では中央に塗り重ね部が生じ仕上がりに影響致します。価格面でも大差は無くバルコニーでも広く塩ビシートが用いられています。


廊下床シート貼り 施工例



 PS扉・消火栓BOX等改修塗装が施され健全な状態と思われますが、直接紫外線・風雨にさらされる外部鉄部に著しいチョーキングが認められます。
 特に○階東側消火栓BOX内部に水が浸入していますので、水抜き穴等の処置が必要です。
 玄関門扉に点錆びが認められます。


避雷針錆び





 建築物には自然治癒力は有りません。施す処置は外科手術となり症状が重くなるにつれ費用も嵩み傷跡も大きくなります。築後12年大規模修繕工事を検討される時期と判断致します。 
 第一回大規模修繕工事は躯体を新築時に近い状態に戻し、美観はもとより躯体保護性能を高める事が重要です。


 上記サンプルは管理組合様に提出したものです。皆さまが日ごろ目にされない屋上、居住階以外の別フロアや外構等調査し、建物の原状をご確認頂き、劣化部の改修方法や大規模修繕工事の流れも動画でご覧いただけます。